学校の長期休みや、お仕事でまとめてお休みが取れる夏の時期を利用してお引っ越しを検討される方もいらっしゃると聞きます。前もって新居を探し、新しい賃貸借契約をして、引越業者の段取りまでして、あとは退去するだけってなったときに、管理会社に連絡しますよね。今回はそんなときのお話です。
入居時に預けた敷金のことを覚えていますか。
賃貸から賃貸へのお引っ越しの場合、新居でも敷金の話が出てきますからイヤでも思い出しますよね。忘れちゃってる人は契約書をもう一度良く見直して下さい。家賃の1ヶ月分とか2ヶ月分とか、結構まとまった額を大家さんに預けています。でもこれ、ちゃんと返して貰ってますか?
払っちゃったからそれでおしまい。喉元過ぎれば熱さを忘れる、ってダメですよ。敷金・保証金(ここでは便宜まとめて「敷金」と表記します。)はあくまでも預けたお金。退去時にはきちんと精算して返します、って契約書にも書いてあると思います。
敷金の精算ってナニ?何が引かれるの?
敷金は通常、借主の故意や過失による汚れや傷を修理するために使われます。家賃の滞納があったりするとそれも差し引かれます。ただし、通常の使用による汚れ、傷など(例えば日差しによる畳の色あせ、家具の設置による床材の軽微なへこみ)は通常損耗と呼ばれ、大家さんが負担すべきものとされています。
このあたりの費用負担について、これまでは曖昧な場合が多く「ハウスクリーニング」や「壁紙の張り替え」等の名目で差し引かれ、なかにはまったく身に覚えのない柱の傷や建具の補修費用まで請求され、敷金がまったく還ってこなかったり、追加料金を請求されることさえあったようです。
敷金は還ってこない!?管理会社の言いなりなの?
このため、国土交通省は平成10年「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」をとりまとめ、その後、改訂も重ね、裁判事例やQ&Aなどを追加し、確認しやすいかたちで敷金返還のあり方を定めています。
また、2017年には民法の改正が行われ、敷金返還が義務化されました。もっとも、改正民法が実際に運用されるのは2020年4月からと言われています。つまり2020年4月以降の契約からでないと改正民法に定めた敷金の原則返還は適用されません。
とはいえ、平成10年から国交省のガイドラインもあることですから、原状回復、敷金返還が管理会社などの言いなりになることはありません。しっかりと理論武装をして、大家さんや管理会社には、敷金の返還を要求しましょう。
どういう費用が敷金から差し引かれるの?
詳しくは国交省のガイドラインに明記されていますが、カーペットなどに飲み物をこぼしたシミや、お手入れ不足による壁紙のカビ、借主であるあなたの不注意や、あなたが頼んだ引越業者が付けたひっかき傷だったり、雨の吹き込みを放置した事によるフローリングの色あせなんかも借主の負担になるとされています。逆に言えば、定期的にお掃除をして、いつも清潔に保って住んでいれば、ほとんどの場合は請求されません。ただ、ペットやたばこについては注意が必要です。
ペット可の物件であっても、ペットを飼っても良いというだけで、修繕(原状回復)を免除します、ということではありません。ペットが付けたひっかき傷やにおいなどは、借主の負担で修繕する必要があります。これは、たばこも同じで壁紙のヤニ汚れやにおいなどは、思いもよらない額を請求されることがあります。
見落としやすいところでは、鍵をなくした事によるシリンダーの取替費用、ガスコンロ、換気扇の油汚れについても、日常生活で掃除を怠っていた場合は、修繕の負担を求められることがあります。契約書に明記されているハウスクリーニング代も、基準はありますが差し引かれます。古い契約に良くある一定程度を越えるような敷引については裁判例で否定されています。
はぁ。やっぱり還ってこないかも・・・。
そんなことはありません!細かい基準があるようにみえますが、普通に住んで、定期的にお掃除していたのなら、少し引かれることはあっても敷金が還ってこないなんて事はないはずです!
ごく一部ですが、悪質な管理会社や大家さんがいて、「どうせ細かい数字なんて分からないだろう」と修繕費用を水増ししたり、過剰な敷引きを適用し、本来請求できない費用まであなたに請求していることがあります。
入居時に契約書を良く確認することはもちろんですが、退去される際にも再度契約書を確認し、敷金がいくら還ってくるのか、請求された費用は本当にご自身が負担すべきものなのか、考える意識を持った方が良いかもしれません。
以上、今回は退去の際の敷金の取り戻しについて書いてみました。
敷金の精算書に疑問があったり、敷金では不足し追い金を請求されるなんて事があったら、ぜひ専門家(弁護士)に相談してみてください。国交省のガイドラインや最近の裁判例を交えて、色々アドバイスして貰えると思いますよ。